最終更新: 2026-07-19
身寄りのない高齢者の老後の備え方
身寄りのない高齢者とは、頼れる家族や親族がおらず、入院・施設入居時の身元保証や判断能力低下時の財産管理、死後の手続きを担う人がいない高齢者を指します。任意後見契約や死後事務委任契約など元気なうちにできる備えと、住まいの選択肢をやさしく解説します。
この記事の要点
- 頼れる家族がいない場合に直面しやすい課題は、入院・施設入居時の身元保証、判断能力低下時の財産管理、死後の手続きという3つに整理できます
- 元気なうちに準備しておける備えは、見守り契約・任意後見契約・死後事務委任契約・公正証書遺言の4つが基本です。それぞれ効力が生じるタイミングが異なります
- 民間の身元保証会社(高齢者等終身サポート事業者)を利用する場合、総額100万〜200万円程度の契約が多いとされ、預託金の管理方法や解約時の返金ルールを契約前に確認することが大切です
- 特別養護老人ホーム(特養)などの介護保険施設は、身元保証人等がいないことのみを理由に入所を断らないよう国が通知しています
- 相談先は地域包括支援センターや社会福祉協議会の日常生活自立支援事業など複数あり、多くは無料で利用できます
身寄りのない高齢者とは、どのような状態を指しますか?
結論身寄りのない高齢者とは、頼れる家族や親族がおらず、入院や施設入居の際の身元保証、判断能力が低下したときの財産管理、死後の手続きを担ってくれる人がいない高齢者のことです。直面しやすい課題は大きく3つに整理できます。
未婚で子どもがいない方、配偶者やきょうだいに先立たれた方、子どもや親族がいても長年疎遠で頼れる関係ではない方など、身寄りのない高齢者は決して珍しい存在ではありません。一人暮らしの高齢者が増えるなかで、「もしものときに誰を頼ればいいのか分からない」という不安を抱える方は少なくありません。
身寄りがないことで直面しやすい課題は、大きく分けると3つあります。入院や施設入居のときの身元保証・緊急連絡先の不在、判断能力が低下したときの財産管理、そして亡くなった後の手続きを誰が担うかという問題です。この記事では、それぞれの課題を整理したうえで、元気なうちに結んでおきたい契約や、身元保証人がいなくても入居できる施設の探し方、相談先までを順番に解説します。単に保証人の問題を解決するだけでなく、老後全体をどう設計するかという視点で読み進めてください。
| 直面しやすい課題 | 具体的に困る場面 |
|---|---|
| 入院・施設入居時の身元保証 | 緊急連絡先や身元保証人を求められても、頼める人がいない |
| 判断能力低下時の財産管理 | 認知症などで判断能力が下がると、預貯金の管理や契約行為が自分で難しくなる |
| 死後の手続き | 葬儀・納骨・家財の処分・行政手続きなどを担う人がいない |
入院や施設入居のとき、身元保証人がいないと何が問題になりますか?
結論身元保証人がいないと、緊急連絡先や治療方針の相談相手を求められて困る場面が増えます。ただし、身元保証人等がいないことのみを理由に病院や介護保険施設が入院・入所を拒むことは適切ではないという考え方を、厚生労働省が2024年6月にも改めて周知しています。
病院や老人ホームの多くは、入院・入所の際に緊急連絡先や身元保証人(身元引受人)を求めます。体調が急変したときの連絡先になったり、治療方針や退院後の生活について相談したり、利用料の支払いを保証したりする役割を期待されているためです。頼れる家族がいないと、この時点でつまずいてしまう方が少なくありません。
この考え方の背景には、2019年に厚生労働省が示した、身寄りがない方の入院や医療における意思決定支援に関するガイドラインがあります。特別養護老人ホーム(特養、原則要介護3以上)などの介護保険施設についても、同様の趣旨の通知が2024年6月に改めて出されました。
とはいえ、実際の入院・入所の手続きでは、緊急連絡先や身元保証人の記入欄が用意されていることがほとんどです。「いない」とだけ伝えて終わるのではなく、この後で解説する任意後見契約や身元保証会社など、代わりの手段を用意しておくと話がスムーズに進みやすくなります。
判断能力が低下すると、どのような不安がありますか?
結論認知症などで判断能力が低下すると、預貯金の管理や施設との契約が自分では難しくなります。身寄りがないまま何も備えずにいると、家庭裁判所が選ぶ後見人(全国的に約8割が親族以外の専門職)に頼ることになり、支援者を自分で選べなくなる不安があります。
判断能力が低下すると、銀行窓口での大きな金額の引き出しや、介護サービス・施設入居の契約手続きなどで、本人確認や意思確認が難しくなる場面が増えます。家族が近くにいれば代わりに対応してもらえますが、身寄りがない場合はこうした手続きが滞り、必要な介護サービスにたどり着けなくなるおそれがあります。
何も備えないまま判断能力が低下すると、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度を利用することになります。後見人を自分であらかじめ選んでおきたい場合は、判断能力があるうちに結んでおく任意後見契約が選択肢になります(後の章で詳しく解説します)。物忘れの増加など気になる変化があるときは、まずかかりつけ医に相談することも大切です。
死後の手続きは、身寄りがないと誰が担うのですか?
結論何も備えがなければ、葬儀・納骨・家財の処分などの死後の手続きは、墓地、埋葬等に関する法律第9条に基づき、最終的に市区町村が最小限の火葬・埋葬を行うことになります。相続人がいない場合、財産は家庭裁判所の手続きを経て、国庫に帰属することがあります。
亡くなった後には、死亡届の提出、葬儀・納骨、病院や施設への支払いの精算、家財道具の片付け、賃貸住宅の解約など、数多くの事務が発生します。これらは法律上、必ず誰かがやらなければならないと決まっているわけではなく、通常は親族が担っています。身寄りがない、あるいは親族が対応を望まない場合は、担い手がいないまま宙に浮いてしまうことになります。
引き取り手がいない場合、墓地、埋葬等に関する法律に基づき、市区町村が火葬・埋葬などの最小限の対応を行います。残された財産は、相続人がいない、または相続人の存在が明らかでない場合、家庭裁判所が選任する相続財産清算人による手続きを経て、最終的に国庫に帰属することがあります。「誰にどう託すか」を自分の意思で決めておきたい場合は、この後で解説する死後事務委任契約や遺言の作成が備えになります。
元気なうちに準備しておきたい備えは、具体的に何がありますか?
結論主な備えは見守り契約・任意後見契約・死後事務委任契約・公正証書遺言の4つです。生きている間の見守りから財産管理、死後の手続き、財産の行き先まで、時期の異なる備えを組み合わせることで、老後全体を見通せるようになります。
身寄りがない場合の備えというと身元保証人の代わりを探すことばかりに目が向きがちですが、大切なのは老後全体を時間軸で見通すことです。見守り契約・任意後見契約・死後事務委任契約・公正証書遺言は、それぞれ効力が生じるタイミングが異なるため、組み合わせて使うのが基本になります。
なかでも任意後見契約は、判断能力があるうちにしか結べません。「まだ元気だから大丈夫」と先延ばしにしているうちに判断能力が下がってしまうと、この選択肢自体が使えなくなる点には注意が必要です。任意後見制度の種類や法定後見との違いは、成年後見制度に関する記事でも詳しく解説しています。
| 契約・制度 | カバーすること | 効力が生じるタイミング |
|---|---|---|
| 見守り契約 | 定期的な訪問や電話で生活状況を確認してもらう | 契約後すぐ(判断能力があるうちから) |
| 任意後見契約 | 財産管理や施設入居の契約手続きを代理してもらう | 判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から |
| 死後事務委任契約 | 葬儀・納骨・家財の処分・行政手続きなどを託す | 本人が亡くなった時点から |
| 公正証書遺言 | 財産の行き先を指定する | 本人が亡くなった時点から(遺言の効力発生時) |
いずれも公証役場で公正証書として作成するのが一般的です(2026年時点)。作成費用は内容や財産額により異なり、任意後見契約は公正証書の手数料が1万〜2万円程度、遺言は財産額に応じて数万円程度からが目安です。
見守り契約とは、どのような契約ですか?
結論見守り契約とは、月1回程度の訪問や電話で生活状況を確認してもらう契約です。任意後見契約の効力を発生させるタイミングを見極める役割も果たします。
任意後見契約は判断能力が低下してから効力が生じますが、「いつ低下したか」は自分では気づきにくいものです。見守り契約を結んでおくと、受任者が定期的な連絡で生活状況を確認し、判断能力の低下や体調の変化が見られた時点で、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てるきっかけを作ってくれます。
見守り契約は、任意後見契約や死後事務委任契約とセットで、弁護士・司法書士・行政書士などの専門職や、この後で解説する身元保証会社と結ぶのが一般的です。頻度や内容によって費用が異なるため、契約前に見積もりを確認しておきましょう。
死後事務委任契約と遺言は、何が違うのですか?
結論遺言は財産を誰にどう残すかを指定する意思表示で、死後事務委任契約は葬儀や納骨、家財の処分といった事務を第三者に頼む契約です。遺言だけでは葬儀の手配や家財の処分までは頼めないため、両方を組み合わせておくと安心です。
「遺言を書いておけば死後の手続きも安心」と考える方もいますが、遺言はあくまで財産の承継先を指定するためのものです。付言事項として葬儀の希望などを書き添えることはできても、法的な強制力はありません。葬儀社の手配や支払い、納骨、家財道具の処分、公共料金の解約といった具体的な事務を確実に託すには、別途、死後事務委任契約を結んでおく必要があります。違いを整理すると、次の3点です。
| 項目 | 遺言 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産を誰にどう残すかを指定する | 葬儀・納骨・家財の処分など死後の事務を託す |
| 法的な効力 | 民法上の要件を満たせば法的効力がある | 契約(委任契約)としての効力がある |
| 頼める相手 | 遺言執行者を指定できる | 専門職や身元保証会社など |
民法の規定に基づく一般的な整理です(2026年時点)。相続人がいない場合の財産の扱いなど、個別の事情によって手続きが異なるため、司法書士や弁護士などの専門職にご相談ください。
身元保証人がいなくても入居できる施設はありますか?
結論あります。特別養護老人ホーム(特養)などは保証人不在のみを理由に入所を断らないよう国が通知しているほか、総額100万〜200万円程度が目安の民間身元保証会社を利用したり、保証人不要で相談できる施設を探したりする方法があります。
介護付き有料老人ホーム(要介護の方向けに24時間体制で介護スタッフが常駐する施設)やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住、自立〜軽介護の方向けの賃貸住宅)でも、身元保証会社の利用や預り金の納付を条件に、保証人なしで受け入れる施設が増えています。ケアハウス(軽費老人ホーム、60歳以上で自宅での生活に不安がある方が対象)は、もともと身寄りの少ない方の利用を想定してきた施設のため、比較的相談しやすい傾向があります。保証人がいなくても入居を相談できる道は、大きく分けて次の3つです。
| 方法 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 民間の身元保証会社を利用する | 身元保証に加え、生活支援から死後の事務までを一括して依頼できる | 総額100万〜200万円程度の契約が多く、解約時の返金ルールを書面で確認する |
| 保証人不要・相談可の施設を探す | 施設に直接、保証人がいない事情を伝えて相談する | パンフレットに明記されていないことが多く、問い合わせでの確認が確実 |
| 自治体・社会福祉協議会の支援を受ける | 日常生活自立支援事業などを利用しながら入居先を探す | 収入や資産が少ない方向けの支援が中心 |
費用は2026年時点の一般的な目安です。身元保証会社(国の資料では高齢者等終身サポート事業者と呼ばれます)を利用する場合、預託金の管理方法や解約時の返金ルールを契約前に書面で確認しましょう。詳しい費用の内訳や選び方のチェックポイントは、身元保証人に関する記事でも解説しています。
何から始めればいいですか?
結論まずはお住まいの地域包括支援センターに相談することが第一歩です。判断能力が低下してからでは選べなくなる備えもあるため、見守り契約や任意後見契約などの準備を、元気な今のうちから段階的に進めましょう。
「何をどこに相談すればいいか分からない」という段階でも大丈夫です。介護の窓口の相談現場では、「まだ元気なうちに何かしておきたいが、何から手をつければいいか分からない」というご相談を数多くお受けします。
介護の窓口(関西4府県対応)では、身元保証人がいない場合の施設探しを無料でお手伝いしています。エリア外にお住まいの方は、お近くの地域包括支援センターにご相談ください。おひとりで抱え込まず、まずは今日、電話一本からでも相談を始めてみましょう。
そのうえで、専門的な契約の準備を進めたいときの主な相談先を整理すると、次の4つです。
| 相談先 | できること |
|---|---|
| 地域包括支援センター | 高齢者の総合相談窓口。今後の生活設計や利用できる制度の案内を無料で受けられる |
| 社会福祉協議会(社協)・日常生活自立支援事業 | 判断能力が不十分な方の福祉サービス利用援助や日常的な金銭管理を支援 |
| 弁護士・司法書士・行政書士 | 任意後見契約・死後事務委任契約・遺言などの契約書作成を依頼できる |
| 公証役場 | 任意後見契約・死後事務委任契約・遺言を公正証書として作成する |
地域包括支援センターや社会福祉協議会への相談は無料です(2026年時点)。日常生活自立支援事業は、判断能力が不十分な方の福祉サービス利用援助や金銭管理を、利用者本人との契約に基づいて支援する仕組みです。専門職への依頼や公正証書の作成には、別途費用がかかります。
よくある質問
身寄りのない高齢者の備えを一言でいうと、何をすればよいですか?
一言でいうと、判断能力があるうちに見守り契約・任意後見契約・死後事務委任契約・公正証書遺言の4つを軸に準備しておくことです。入院・施設入居時の身元保証、判断能力低下時の財産管理、死後の手続きという3つの場面すべてに備えるのがポイントです。
保証人がいなくても老人ホームには入居できますか?
入居できる可能性は十分にあります。特別養護老人ホーム(特養)などの介護保険施設は、保証人がいないことのみを理由に入所を断らないよう国が通知しているほか、民間の身元保証会社の利用や、保証人不要で相談できる施設を探す方法もあります。
任意後見契約は、判断能力が低下してからでは結べませんか?
結べません。任意後見契約は、本人に十分な判断能力があるうちにしか結べない契約です。すでに判断能力が低下している場合は、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度を利用することになります。迷ったときは、早めに専門職や地域包括支援センターに相談しましょう。
死後の手続きを誰も引き受けてくれない場合は、どうなりますか?
引き取り手がいない場合、法律に基づき市区町村が火葬・埋葬などの最小限の対応を行います。財産は家庭裁判所の手続きを経て、最終的に国庫に帰属することがあります。葬儀の方法や財産の行き先を自分の意思で決めておきたい場合は、死後事務委任契約や遺言を元気なうちに準備しておくことが備えになります。
民間の身元保証会社を使うと、費用はどれくらいかかりますか?
入会金・月会費・預託金などを合わせて、総額100万〜200万円程度になる契約が多いとされています。契約前に、サービスの範囲や解約時の返金ルール、預託金の管理方法を書面で確認することが大切です。
最初の相談先はどこがよいですか?
まずはお住まいの地域包括支援センターに相談することをおすすめします。判断能力があるうちに任意後見契約などの準備を進めたい場合は、弁護士・司法書士などの専門職や公証役場も相談先になります。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(2019年5月)
- 厚生労働省 老健局「介護保険最新情報 Vol.1273」(2024年6月)
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」
- 全国社会福祉協議会「日常生活自立支援事業」
- 内閣官房・消費者庁・厚生労働省ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(2024年6月)
- 東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」
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