最終更新: 2026-07-06
入居一時金とは
入居一時金とは家賃を前払いするお金です。初期償却・償却期間のしくみを表で図解し、90日ルールなど返還の決まり、0円プランとの総額比較、トラブル事例と契約前の確認ポイントまでやさしく解説します。
この記事の要点
- 入居一時金は想定居住期間分の家賃などを前払いするお金で、法律上は「前払金」。支払うと毎月の家賃部分が抑えられる
- 入居時に一定割合が償却される「初期償却」と、残りを毎月償却していく「償却期間」の2段階で減っていき、途中退去では未償却分が返還される
- 契約から90日以内の解約・死亡退去では、日割り家賃などの実費を除いて前払金が全額返還される(短期解約特例、いわゆる90日ルール)
- 一時金プランと0円プランの分岐点の目安は「前払金の額÷月額の差」の期間。長く住むほど一時金プランが総額では有利になりやすい
- 契約前は初期償却の割合・償却期間・返還金の計算式・保全措置(500万円まで)の4点を重要事項説明書で確認する
入居一時金とは?家賃を前払いするお金です
結論入居一時金とは、有料老人ホームなどに入居するときに、想定される居住期間分の家賃などを前払いするお金のことです。法律上は「前払金」と呼ばれ、支払うことで毎月の支払いのうち家賃部分を抑えられます。
金額は施設によって大きく異なり、0円のところから数千万円のところまであります。同じ施設・同じ部屋でも「一時金あり」「一時金0円」など複数のプランから選べることが多く、どのプランを選ぶかで初期費用と月額のバランスが変わります。パンフレットでは「入居金」「入居時費用」など表記もさまざまですが、基本のしくみは共通です。
かつては「権利金」など性格のあいまいなお金を受け取る施設もありましたが、2012年の老人福祉法改正で、家賃・敷金・介護などのサービス対価以外のお金を受け取ることは禁止されました。現在の入居一時金は家賃などの前払いという性格に整理されており、契約書や重要事項説明書では「前払金」という言葉で書かれていることもあります。前払いだからこそ、この後ご説明する償却や返還のルールが法律や国の指導指針で定められています。
入居一時金があるのは、主に介護付有料老人ホームと住宅型有料老人ホームです。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は敷金方式(家賃の2〜3ヶ月分程度)が中心で、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などの公的施設では原則かかりません。敷金は退去時に原状回復費などを差し引いて返還される預け金で、時間の経過とともに減っていく入居一時金とは性格が異なります。グループホーム(認知症対応型共同生活介護)も、保証金・敷金方式が中心です。
償却のしくみ|初期償却と償却期間の2段階で進みます
結論償却とは、前払いした入居一時金が時間の経過に応じて施設の収入に振り替わっていくことです。入居した時点でまとまった割合が償却される初期償却と、残りを毎月少しずつ償却していく償却期間の2段階で進みます。
初期償却は、入居した時点で施設のものになり、返還の対象から外れる部分です。割合は施設ごとに異なりますが、前払金の1〜3割程度に設定される例が多く見られます。残りの金額は、償却期間(5〜10年程度の設定が一般的)にわたって毎月均等に償却していく方式が主流です。「前払いした家賃を毎月少しずつ取り崩していくイメージ」と考えると分かりやすいでしょう。
たとえば前払金600万円・初期償却20%・償却期間5年(60ヶ月)の場合、入居時に120万円が償却され、残る480万円が毎月8万円ずつ償却されていきます。経過のイメージは次の表のとおりです。
| 経過期間 | 償却済みの額 | 未償却の額(退去時の返還対象) |
|---|---|---|
| 入居時(初期償却20%) | 120万円 | 480万円 |
| 1年後 | 216万円 | 384万円 |
| 3年後 | 408万円 | 192万円 |
| 5年後(償却期間の満了) | 600万円 | 0円 |
| 5年経過より後 | 追加の支払いなし | 0円(そのまま住み続けられます) |
前払金600万円・初期償却20%・償却期間60ヶ月の均等償却で計算したモデル例です(2026年時点)。初期償却の割合・償却期間・計算方法は施設ごとに異なります。
入居一時金プランと0円プラン、総額はどちらが得?
結論分かれ目は想定する居住期間です。前払いした分だけ月額が下がるため、長く住むほど一時金プランが、短いほど0円プランが総額では有利になりやすい構造です。
入居一時金0円プランは、初期費用がかからない代わりに、前払いしなかった家賃分が月額に上乗せされます。パンフレットには片方のプランしか大きく載っていないこともあるため、比較の際は両プランの料金表を取り寄せて、同じ条件で並べることが大切です。同じ施設・同じ部屋で両プランを選べる場合の支払総額を、モデル例で比べてみましょう。
- 償却期間内に退去すると一時金プランには未償却分の返還があるため、実際の差は表より縮まります(この例で3年後に退去すると192万円が返還され、実質約1,128万円と0円プランにほぼ並びます)
- 一方、初期償却分(この例では120万円)は、どれだけ早く退去しても返還されません
- まとまったお金を施設に固定すると、医療費や住み替えなど想定外の出費に対応しにくくなります。手元に残す生活予備費とのバランスも大切です
- 判断に迷うときは施設ごとの条件でご一緒に試算しますので、介護の窓口の無料相談をお気軽にご利用ください
| 入居期間 | 一時金プラン(前払金600万円・月額20万円) | 0円プラン(月額30万円) |
|---|---|---|
| 2年(24ヶ月) | 計1,080万円 | 計720万円 |
| 3年(36ヶ月) | 計1,320万円 | 計1,080万円 |
| 5年(60ヶ月) | 計1,800万円 | 計1,800万円(分岐点) |
| 7年(84ヶ月) | 計2,280万円 | 計2,520万円 |
| 10年(120ヶ月) | 計3,000万円 | 計3,600万円 |
月額差10万円のモデル例による概算です(2026年時点)。分岐点の目安は「前払金の額÷月額の差」で計算でき、この例では600万円÷10万円=60ヶ月(5年)です。実際の分岐点はプランの設計によって変わります。
退去・死亡時の返還ルール|90日ルールと保全措置
結論契約から90日以内の解約や死亡による退去では、日割りの家賃などの実費を除いて前払金の全額が返還されます(短期解約特例、いわゆる90日ルール)。それ以降は、償却期間内であれば未償却分が返還されます。
短期解約特例は2012年度から老人福祉法で義務付けられたルールで、入居して間もない時期の解約や死亡退去でも、前払金の大部分が戻るようにするための利用者保護のしくみです。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の前払金にも、高齢者住まい法に基づく同様のルールがあります。なお、90日を過ぎた直後の退去では初期償却分が戻らなくなるため、入居直後に住み替えを迷っている場合は、判断の時期も返還額に影響します。
償却期間内の返還額は、「前払金×(1−初期償却の割合)×(償却期間の残り月数÷償却期間の月数)」という月割りの計算式が一般的です。同じ考え方の計算式が契約書に明記されているか、金額の具体例とあわせて確認しておきましょう。
また、施設の倒産に備えるしくみとして、有料老人ホームには前払金の保全措置が義務付けられています。未償却分のうち500万円を上限に、銀行保証や信託などの方法で保全され、2021年4月からは開設時期を問わず、すべての有料老人ホームが対象になりました。裏を返せば、500万円を超える部分は保全されない場合があるため、高額な前払金を支払うときほど保全措置の内容確認が大切です。
| 退去の時期 | 返還の扱い |
|---|---|
| 契約から90日以内(短期解約特例) | 原則全額返還(滞在日数分の家賃や原状回復費などの実費は控除) |
| 90日経過後〜償却期間内 | 未償却分を返還(初期償却分は返還されない) |
| 償却期間の満了後 | 返還金は0円(追加の前払金も不要) |
老人福祉法に基づく短期解約特例と、一般的な償却契約の整理です(2026年時点)。起算日や控除される実費の範囲は契約によるため、契約書・重要事項説明書で必ず確認してください。
想定居住期間とは?前払金の根拠になる考え方
結論想定居住期間とは、入居時の年齢や平均余命などをもとに施設が設定する「入居が見込まれる期間」のことです。前払金の額や償却期間は、この想定居住期間を根拠に計算されています。
老人福祉法では、前払金を受け取る施設に対して、その算定の根拠を書面で明示することを義務付けています。重要事項説明書などには、想定居住期間分の家賃にあたる金額と、想定居住期間を超えて住み続けた場合に備えて受け取る金額(初期償却にあたる部分)が分けて示されますので、説明を受けるときはこの内訳を確認しましょう。入居時の年齢が高いほど想定居住期間は短く設定される傾向があり、同じ部屋でも前払金の水準や償却期間は施設ごとに変わります。
想定居住期間や償却期間を超えて長生きされても、それを理由に退去を求められることはなく、追加の前払金もかかりません。長く住むほど、前払いした家賃の1ヶ月あたりの負担は下がっていく計算になります。
一方で、入居後に状態が変わり、早期の入院や、医療体制の整った施設への住み替えが必要になることも現実にはあります。初期償却分は早期退去でも戻らないため、ご本人の健康状態や介護度の見通し、住み替えの可能性まで含めて、想定する居住期間を慎重に見積もることが大切です。
よくあるトラブルと契約前の確認ポイント
結論前払金をめぐるトラブルの多くは、初期償却や返還条件の説明不足・理解不足から起きています。国民生活センターにも退去時の返金に関する相談が寄せられており、契約前に書面で確認しておくことが最大の予防策です。
相談現場では、パンフレットの入居金の額だけを見てプランを決め、初期償却や償却期間の存在を契約直前に初めて知った、というご家族が少なくありません。見学の段階で重要事項説明書と返還金の計算式を取り寄せ、「いま退去したらいくら戻るのか」を数字で確認しておくと、契約後の行き違いをほとんど防ぐことができます。一時金が数百万円を超える場合は、ご家族も同席して説明を受けると安心です。
なお、有料老人ホームの重要事項説明書は都道府県などに提出されており、自治体のホームページで公開されていることもあります。契約前の下調べに活用できます。説明に納得できない点がある場合は、その場で契約せず、いったん持ち帰りましょう。契約後にトラブルになったときは、お住まいの消費生活センター(消費者ホットライン188)や市区町村の高齢者福祉の窓口に相談できます。
| トラブルの例 | 契約前の確認ポイント |
|---|---|
| 早期に退去したのに思ったより戻らなかった | 90日ルールの起算日(契約日か入居日か)と、控除される実費の範囲 |
| 初期償却を知らず、返還額が想定より少なかった | 初期償却の割合と金額、償却期間、返還金の計算式 |
| 原状回復費を差し引かれて返還額が減った | 原状回復・クリーニング費用の負担範囲と金額の目安 |
| 運営会社の倒産が心配 | 保全措置の有無と方法(銀行保証・信託など)、保全される上限額 |
| 死亡退去時の返還金をめぐり家族間で混乱した | 返還金の受取人を指定できるか、必要な手続き |
国民生活センターの消費者トラブルFAQなどで公表されている相談事例を参考に整理しました(2026年時点)。
消費税や相続では、入居一時金はどう扱われますか?
結論入居一時金は住まいの家賃の前払いという性格のため、原則として消費税はかかりません。また、死亡退去で生じた未償却分の返還金は、原則として相続財産になります。
住宅の家賃は消費税がかからない(非課税)とされているため、その前払いである入居一時金も原則として非課税です。毎月支払う家賃相当額も同じ考え方で原則非課税ですが、管理費やサービスの対価にあたる部分には消費税がかかるものもあります。
死亡退去のときの返還金は原則として相続財産となり、遺産分割や相続税の対象になることがあります。契約時に返還金の受取人を指定できるホームもあります。ご本人以外が一時金を負担する場合の贈与税の扱いなども含め、具体的な税務は税務署や税理士にご確認ください。
まとめ|契約前に確認したい4つのポイント
結論入居一時金は、初期償却・償却期間・返還金の計算式・保全措置の4点を重要事項説明書で確認すれば、トラブルの多くを避けられます。あわてて契約せず、数字で納得してから進みましょう。
初期費用と月額のバランスや、介護保険の自己負担まで含めた費用全体の組み立ては、親記事「老人ホームの費用」で全体像を整理しています。入居までの流れや見学時に確認したい質問例も別記事にまとめていますので、プラン選びで迷ったときはあわせてご覧ください。
介護の窓口では、関西エリアの施設について、一時金プランと0円プランの総額試算や、重要事項説明書の償却条件の読み合わせを無料でお手伝いしています。「この施設の一時金は妥当なの?」といった個別のご質問もお気軽にどうぞ。
- 初期償却の割合と金額(入居した時点で戻らなくなるお金)
- 償却期間と毎月の償却ペース(いつ返還対象がゼロになるか)
- 返還金の計算式と、90日ルールの起算日・控除される実費
- 保全措置の有無と方法(未償却分のうち500万円を上限に保全)
- 0円プランがある場合は、想定する居住期間での総額比較
よくある質問
入居一時金と敷金はどう違いますか?
敷金は退去時に原状回復費などを差し引いて返還される預け金で、住んでいる間に減ることはありません。一方、入居一時金は家賃の前払いなので、初期償却と毎月の償却によって返還される額が減っていきます。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は敷金方式が中心、有料老人ホームは前払金方式または0円プランが中心という違いもあります。
入居一時金の相場はいくらくらいですか?
0円から数千万円まで施設による幅が非常に大きいのが実情です。関西の一般的な介護付有料老人ホーム・住宅型有料老人ホームでは0〜数百万円程度が中心で、設備やサービスの手厚い都市部のホームでは1,000万円を超えることもあります(2026年時点の目安)。同じ施設で複数のプランから選べる場合も多くあります。
90日以内に退去すれば必ず全額戻りますか?
原則として全額返還されますが、滞在した日数分の家賃相当額や原状回復費などの実費は差し引かれます。また、起算日を契約日とするか入居日とするかなどの細部は契約によって異なるため、契約書での確認が必要です。死亡による契約終了の場合にも適用されます。
償却期間が終わったら、追加でお金を払う必要がありますか?
追加の前払金は不要で、退去する必要もありません。償却期間の満了後は、月額利用料(家賃相当額・管理費・食費など)の支払いだけで住み続けられます。長く住むほど、一時金プランは1ヶ月あたりの家賃負担が下がっていく構造です。
施設が倒産したら入居一時金はどうなりますか?
有料老人ホームには前払金の保全措置が老人福祉法で義務付けられており、未償却分のうち500万円を上限に銀行保証や信託などで保全されます。ただし500万円を超える部分は保全の対象外となる場合があるため、高額な前払金を支払うときは、保全措置の内容と運営会社の経営状況をあわせて確認すると安心です。
入居一時金を子どもが代わりに支払ってもよいですか?
支払い自体は可能ですが、ご本人以外が負担すると贈与税の対象になる場合があります。また、死亡退去時の返還金は原則として相続財産になるため、誰が支払い、返還金を誰が受け取るのかは契約前にご家族で整理しておくのがおすすめです。具体的な税務の判断は税務署や税理士にご確認ください。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」
- 老人福祉法(e-Gov法令検索)
- 内閣府消費者委員会「前払金の保全措置について(制度の概要等)」
- 国民生活センター「消費者トラブルFAQ(老人ホーム)」
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