最終更新: 2026-07-05
認知症の徘徊への対応と対策
認知症の徘徊(ひとり歩き)への対応と対策を、はじめて介護するご家族向けに解説します。本人が歩き回る理由、警察庁統計にみる行方不明の現状、GPSや見守りネットワークなど家庭でできる対策、行方不明時の初動、施設という選択肢まで分かります。
この記事の要点
- 徘徊は目的のない歩き回りではなく、家に帰りたい・仕事に行くといった本人なりの目的や不安がある行動です
- 警察庁統計では、認知症が原因の行方不明者は2024年に18,121人と、統計開始の2012年の約2倍の高い水準が続いています
- 玄関センサー・GPS・連絡先の名札・近所への声かけ・SOSネットワーク登録を組み合わせるのが家庭での対策の基本です
- 姿が見えなくなったら、家の中を確認したうえで、ためらわずすぐ110番してかまいません。恥ずかしいことではありません
- 家族だけで抱えて限界になる前に、グループホームなど徘徊があっても受け入れ実績のある施設への相談も選択肢です
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認知症の徘徊とは?本人なりの理由がある行動です
結論認知症の徘徊とは、記憶障害や見当識障害の影響で外を歩き回り、自宅や外出先から戻れなくなる行動のことです。周囲には目的がないように見えても、本人には家に帰る・仕事に行くといった本人なりの目的や不安があることがほとんどです。
徘徊は、認知症にともなう行動・心理症状(BPSD)のひとつです。歩き回る本人には、帰りたい・探したい・行かなければならないという本人なりの目的があります。たとえば、退職したはずの会社に出勤しようとする、子どもの頃に住んでいた実家に帰ろうとする、家族を迎えに行こうとするなど、昔の記憶にもとづいた行動が多くみられます。
また、見当識障害によって今いる場所や時間が分からなくなると、強い不安から「ここは自分の家ではない」と感じ、安心できる場所を探して外に出ることがあります。夕方になるとそわそわして落ち着かなくなる「夕暮れ症候群」と呼ばれる状態もよく知られています。つまり徘徊は、わがままや気まぐれではなく、認知症という病気から生じる症状です。
徘徊は、引っ越しや入院、施設への入居直後など、環境が大きく変わったタイミングで起こりやすくなるといわれています。慣れない場所への不安が引き金になるためで、環境の変化があった時期は特に注意して見守ると安心です。
なお、本人には理由がある行動だという理解が広がり、最近では「徘徊」ではなく「ひとり歩き」と言い換える自治体も増えています。この記事では、検索で使われることの多い「徘徊」という表記を使いながら、本人の気持ちに寄り添った対応の仕方を紹介します。
徘徊はなぜ危険?行方不明・事故・脱水のリスク
結論最大のリスクは、行方不明になって発見が遅れることです。交通事故や転倒に加えて、夏場の脱水・熱中症、冬場の低体温症など、発見が遅れるほど命に関わる危険が高まります。
認知症のある方は、道に迷っても自分から助けを求められなかったり、名前や住所をうまく伝えられなかったりすることがあります。歩いて想像以上に遠くまで行ってしまうことも珍しくなく、都市部では電車やバスに乗って隣の市や府県で見つかるケースもあります。具体的には、次のような危険が考えられます。
こうした危険は、発見までの時間が長くなるほど高まります。一方で、警察庁の公表によると、発見時に死亡が確認された方の約8割は、最後に姿が見られた場所から5キロ圏内という比較的近い場所で見つかっています。近所の川や側溝なども含めて、早く・近くから探すことが大切だと分かります。
- 交通事故や線路への立ち入り
- 転倒によるけが・骨折
- 夏場の脱水・熱中症、冬場の低体温症
- 季節に合わない服装のままの外出による体調悪化
- お金や連絡手段を持たないままの長距離の移動
| 発見までの時間(2024年) | おおよその状況 |
|---|---|
| 届出の当日 | 約7割(12,476人)が所在確認 |
| 1週間以内 | 大半の方が所在確認に至ります |
| 発見時に死亡が確認された方 | 491人。約8割は最後に姿が見られた場所から5キロ圏内で発見 |
出典は警察庁の2024年(令和6年)分の公表資料です。死亡が確認された場所は河川・用水路・山林などが多いと報告されています。
認知症による行方不明者はどのくらい?(警察庁統計)
結論警察庁の統計では、認知症またはその疑いが原因の行方不明者(届出)は2024年(令和6年)に18,121人でした。統計を始めた2012年の約2倍の水準が続いており、決して珍しいことではありません。
認知症による行方不明の届出は2012年の統計開始から増え続け、2023年には19,039人と11年連続で過去最多を更新しました。2024年は18,121人とやや減ったものの、1日あたり約50件の届出がある計算で、依然として高い水準です。どのご家庭にも起こり得ることとして備えておく必要があります。
| 年 | 認知症等が原因の行方不明者(届出数) |
|---|---|
| 2012年(平成24年) | 9,607人(統計開始) |
| 2022年(令和4年) | 18,709人 |
| 2023年(令和5年) | 19,039人(過去最多) |
| 2024年(令和6年) | 18,121人 |
出典は警察庁「行方不明者の状況」各年版(2024年分は令和7年6月公表)です。2026年時点で公表されている数値をもとに作成しています。
家庭でできる徘徊対策|グッズと地域の見守りを組み合わせる
結論対策の基本は、外に出たことにすぐ気づく仕組み、居場所を探せる仕組み、見つけた人から連絡をもらえる仕組みの3つの組み合わせです。閉じ込めるのではなく、安全に見守るという発想が長続きのコツです。
このほか、玄関に鏡やのれんを置くと出口と認識されにくくなる、夜間はトイレまでの動線に明かりをつける、日中にデイサービス(通所介護)などで体を動かして生活リズムを整える、といった環境面の工夫も効果が期待できます。近所への声かけは気が引けるかもしれませんが、実際の発見のきっかけは地域の方の連絡であることが多く、心強い味方になってくれます。
注意したいのは、施錠だけに頼りすぎないことです。出られない状況が続くと本人の不安やいらだちが強まり、かえって症状が悪化したり、窓から出ようとして転落するなど別の危険につながったりすることがあります。
| 対策 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 玄関センサー・チャイム | ドアの開閉や人の通過を、音やスマートフォンへの通知で知らせます | 数千円程度から(市販品) |
| GPS端末 | 靴・杖・かばんなどに入れて位置を確認できます。GPS内蔵シューズもあります | 月数百円〜2,000円程度+機器代(自治体の貸与・補助あり) |
| 名札・見守りシール | 衣類や持ち物に名前と連絡先を縫い付け・貼り付けます。QRコード式シールを配布する自治体もあります | 数百円程度から(自治体によっては無料) |
| 近所やよく行く店への声かけ | 見かけたら連絡してほしいと日頃から伝えておきます | 無料 |
| SOSネットワークへの事前登録 | 市区町村や警察に本人の特徴・写真を登録し、行方不明時に地域ぐるみで捜索します | 無料 |
費用は2026年時点の一般的な市販品・サービスの目安です。貸与や補助の内容は市区町村により異なります。
外に出たがるときの声かけは?否定せず付き添い、気をそらす
結論出かけようとする本人を正面から止めるのではなく、まず目的を受け止めて、いったん付き添うのが基本です。歩きながらお茶や食事に誘って気をそらすと、自然に帰宅につながりやすくなります。
「家にいるでしょう」「外に出ないで」と正論で説得したり叱ったりすると、本人の不安と興奮が強まり、かえって出て行こうとする気持ちが強くなることがあります。まずは「どちらへ行かれるのですか」と目的をたずねてみてください。トイレを探していた、お腹がすいていたなど、意外な理由が分かることもあります。
危険がなければ「一緒に行きましょうか」と付き添って少し歩き、頃合いをみて「お茶にしませんか」「今日はもう遅いので、明日にしましょう」と別の行動に誘います。夕方に落ち着かなくなる方には、「夕食の準備を手伝ってもらえますか」と役割をお願いすると、気持ちが切り替わることもあります。
毎回うまくいくとは限りませんが、否定しない対応を続けることで本人の安心感が積み重なり、外へ出ようとする回数が落ち着いてくることもあります。うまくいった声かけをメモして、家族やデイサービスの職員と共有しておくと対応が安定しやすくなります。
- 避けたい対応:「出ないで」と強く止める、叱る、嘘をついて閉じ込める
- おすすめ:「どちらまで行かれますか」と目的を聞く
- おすすめ:「一緒に行きましょう」といったん付き添う
- おすすめ:「お茶を飲んでからにしましょう」と休憩を挟んで気をそらす
行方不明になったときの初動|すぐ110番してかまいません
結論姿が見えないと気づいたら、家の中と敷地を短時間で確認し、見つからなければためらわず110番通報してください。認知症による行方不明の届出は年間1.8万件を超えており、珍しいことでも恥ずかしいことでもありません。
110番は事件や事故だけのための番号ではありません。認知症の方の行方不明は命に関わるおそれがあるため、警察もすぐに動いてくれます。様子を見ようと家族だけで探し続け、通報が夜になってしまうのがいちばん危険です。数十分探して見つからなければ通報する、と家族で決めておきましょう。
日頃の備えとして、毎朝その日の服装をスマートフォンで撮影しておくと、捜索時に特徴を正確に伝えられます。最近の顔写真、身長や体格、よく行く場所のリストを1枚にまとめておくと、いざというときに慌てずに済みます。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1. 家の中と敷地を確認(5〜10分) | トイレ・浴室・押し入れ・庭・車の中などを確認し、いなくなった時刻と服装をメモします |
| 2. 110番通報 | 認知症であること、服装・体格・持ち物、写真の有無を伝えます。行方不明者届は最寄りの警察署や交番でも受け付けています |
| 3. 関係者へ連絡 | 家族・ケアマネジャー・地域包括支援センターへ連絡します。SOSネットワーク登録済みなら捜索協力の依頼を出してもらいます |
| 4. 心当たりを手分けして捜索 | 昔の職場・実家・よく行く店・駅やバス停など、本人にゆかりのある場所を中心に探します。帰宅に備えて1人は自宅で待ちます |
| 5. 発見後の連絡とケア | 見つかったら必ず警察に連絡します。脱水やけがの有無を確認し、必要に応じて受診します |
手順は一般的な例です。SOSネットワークの連絡の流れは市区町村により異なります。
介護保険や自治体の支援|GPS貸与・見守りサービスもあります
結論多くの市区町村が、GPS端末の貸与や購入補助、見守りシールの配布、認知症高齢者SOSネットワークなどの支援を用意しています。窓口は市区町村の高齢福祉担当課、または地域包括支援センターです。
支援の名称や内容は自治体ごとに異なりますが、関西の市区町村でも、GPS機器の初期費用や月額利用料の助成、QRコード付き見守りシールの無料交付、コンビニや宅配事業者と連携した見守り協定など、さまざまな取り組みが行われています。多くは無料または少額で利用できるので、まずはお住まいの自治体の制度を確認してみてください。
介護保険では、福祉用具貸与の種目に「認知症老人徘徊感知機器」があり、玄関などに置くセンサーを自己負担1〜3割でレンタルできる場合があります(原則として要介護2以上が対象です)。また、デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)で日中の活動を増やすことは、生活リズムが整って夜間の外出が落ち着く効果と、ご家族の休息の両方につながります。担当のケアマネジャーがいる場合は、まずケアプランの見直しを相談してみましょう。
どの窓口に何を相談すればよいか分からないときは、地域包括支援センターのほか、介護の窓口の相談員にもお声がけください。お住まいの地域で使える見守り支援を無料でお調べします。
家族が限界を感じたら|グループホームなど施設も選択肢です
結論夜間の見守りで家族が眠れない、行方不明を繰り返すといった状態は、在宅介護の限界サインです。認知症ケアを専門とするグループホーム(認知症対応型共同生活介護)をはじめ、徘徊があっても受け入れ実績のある施設は少なくありません。
在宅での対策を尽くしても、夜中に何度も起きて対応する生活が続けば、ご家族の心身は確実に消耗していきます。ご家族が倒れてしまう前に施設への入居を検討することは、逃げではなく、ご本人の安全を守るための前向きな選択です。
相談現場では、「徘徊があると施設に断られるのではないか」と心配されるご家族が多くいらっしゃいます。実際には、夜間の見守り体制や出入口のセンサーを整えて、徘徊のある方を日常的に受け入れている施設は少なくありません。問い合わせや見学の際に「夜間に月に数回、外へ出ようとする」「一度、電車で隣の市まで行ったことがある」など、頻度と場面を具体的に伝えると、受け入れ体制のある施設と出会いやすくなります。症状を軽く伝えて入居し、あとから対応できないと分かるほうが、ご本人にとってもつらい結果になります。
介護の窓口でも、徘徊のある方の受け入れ実績を確認しながら、相談員が無料で施設探しをお手伝いしています。検討の中心になるのは、次のような施設です。
| 施設種別 | 入居の目安 | 認知症・徘徊への対応 |
|---|---|---|
| グループホーム(認知症対応型共同生活介護) | 要支援2以上+認知症の診断(原則、施設と同一市区町村に住民票) | 認知症ケア専門の施設です。少人数(1ユニット9人以下)で職員の目が届きやすく、徘徊への対応経験が豊富です |
| 特別養護老人ホーム(特養) | 原則要介護3以上(要介護1・2は特例入所のみ) | 認知症の入居者が多く、費用を抑えやすい施設です。地域によっては入居待ちが生じることがあります |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設により自立〜要介護5まで幅広い | 24時間職員が常駐します。認知症専用フロアや出入口センサーを備える施設もあります |
入居条件の詳細は施設や自治体により異なります。2026年時点の一般的な目安です。
よくある質問
認知症の徘徊はなぜ起こるのですか?
記憶障害や見当識障害で今いる場所や時間が分からなくなり、家に帰りたい、仕事に行かなければならないといった本人なりの目的や不安から歩き出すことが多いとされています。目的のない歩き回りではなく、本人にとっては理由のある行動です。背景にトイレ探しや退屈、体の不調が隠れていることもあります。
徘徊を防ぐために鍵をかけて閉じ込めてもよいですか?
外から施錠して閉じ込める方法は、本人の不安や興奮を強めて症状を悪化させたり、窓から出ようとして転落するなど別の事故につながったりするおそれがあります。センサーやGPS、地域の見守りを組み合わせて、外に出てもすぐ気づける形にするのが現実的です。対応に迷うときはケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してください。
行方不明に気づいたら、すぐ警察に連絡してよいですか?
はい。家の中と敷地を確認して見つからなければ、すぐ110番してかまいません。事件でなくても受け付けてもらえ、届出が早いほど無事に見つかる可能性が高くなります。市区町村や警察のSOSネットワークに事前登録しておくと、捜索がよりスムーズになります。
GPSはどこに付けると効果的ですか?
外出のときに必ず身につける物に付けるのが基本です。靴に入れる小型タイプやGPS内蔵シューズ、杖・かばん・キーホルダー型などがあります。本人が嫌がる場合は、目立たない形で普段の持ち物に組み込む方法が現実的です。自治体の貸与・補助制度も確認してみてください。
徘徊があると施設に入れないのではないですか?
徘徊があることを理由に必ず断られるわけではありません。グループホーム(認知症対応型共同生活介護)をはじめ、夜間の見守り体制を整えて徘徊のある方を受け入れている施設は多くあります。問い合わせや見学の際に、頻度や時間帯など症状を具体的に伝えることが、合う施設に出会う近道です。
徘徊は薬で止められますか?
徘徊そのものを直接止める薬はないとされています。ただし、背景にある不安や不眠、体の不調を治療・ケアすることで、結果的に落ち着くことはあります。自己判断で薬を調整せず、主治医や認知症疾患医療センターに相談してください。日中の活動で生活リズムを整えることも有効とされています。
参考(一次情報)
- 警察庁 令和6年における行方不明者届受理等の状況(令和7年6月公表)
- 警察庁 令和5年における行方不明者の状況
- 政府広報オンライン 知っておきたい認知症の基本
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