最終更新: 2026-07-05
認知症の方への接し方
認知症の方への接し方を、否定しない・急がせない・自尊心を守るの3原則から解説。言ってはいけない言葉、同じ話の繰り返し・物盗られ妄想・帰宅願望・入浴拒否など場面別の対応、家族がつらいときの相談先まで、はじめての介護家族向けにやさしくまとめました。
この記事の要点
- 認知症ケアの基本は「否定しない・急がせない・自尊心を守る」の3原則です
- 叱る・間違いを正す・子ども扱い・無視などの対応は、不安を強めてBPSD(行動・心理症状)が悪化する悪循環につながりやすくなります
- もの忘れなどの中核症状は接し方で治せなくても、妄想や介護拒否などのBPSDは対応の工夫で軽くなることがあります
- 同じ話の繰り返しや帰宅願望には、否定せずに気持ちを受け止めてから、話題や場面をさりげなく切り替えるのが基本です
- 家族だけで抱え込まず、かかりつけ医・地域包括支援センター・家族会、そして施設のプロのケアを早めに頼ることが大切です
認知症の方への接し方とは?まず知りたい3つの基本原則
結論認知症の方への接し方とは、記憶や判断の力が低下した本人の不安に寄り添い、安心して過ごせるように支える関わり方の工夫です。基本は「否定しない・急がせない・自尊心を守る」の3原則です。
認知症の方への接し方(認知症対応)とは、もの忘れや判断力の低下からくる言動を頭ごなしに正すのではなく、本人の不安や混乱に寄り添いながら、おだやかに過ごせるよう支える関わり方のことです。認知症が進んでも、うれしい・悲しい・恥ずかしいといった感情は最後まで保たれるといわれています。出来事の内容そのものは忘れてしまっても、「叱られた」「ばかにされた」という嫌な感情は心に残りやすく、その後の症状や介護のしやすさに大きく影響します。
話しかけるときは、正面からゆっくり近づき、目線を合わせて、短い言葉でひとつずつ伝えるのが基本です。後ろから急に声をかけたり、複数の用件を一度に伝えたりすると、驚かせて不安にさせてしまうことがあります。
そのうえで、はじめて介護をするご家族に押さえていただきたいのが次の3原則です。この3原則は、後述するBPSD(行動・心理症状)の予防にも直結します。正しさよりも安心を優先すると覚えておくと、多くの場面で迷いにくくなります。
- 否定しない: 事実と違う話でも、まずは「そうなんですね」と受け止めます。本人にとってはそれが現実であり、否定されると不安と混乱が強まります
- 急がせない: 着替えや食事に時間がかかっても、できるだけせかさずに待ちます。あせらせると失敗が増え、自信を失うきっかけになります
- 自尊心を守る: 人生の先輩として敬意をもって接し、できることは本人にお願いします。先回りのしすぎや子ども扱いは、尊厳を傷つけてしまいます
認知症の方に言ってはいけない言葉・やってはいけない対応は?
結論叱る・間違いを正す・子ども扱いする・無視するといった対応は避けるのが基本です。本人の不安を強め、症状がさらに悪化する悪循環につながりやすいためです。
「さっきも言ったでしょ」「何回言えばわかるの」といった言葉は、介護に疲れてくるとつい出てしまうものです。しかし本人は、言われた内容そのものは覚えていられない一方で、責められたという嫌な感情だけが積み重なっていきます。その結果、不安や被害感が強まってBPSDが悪化し、介護がさらに大変になるという悪循環に入りやすくなります。
叱責が不安を生み、不安が症状を悪化させ、増えた介護負担がさらに強い叱責につながる。この流れを断ち切る入口になるのが、日々の言葉づかいと態度です。代表的な避けたい対応と、その理由を表にまとめました。
| 避けたい対応・言葉の例 | 避けたい理由 | 起こりやすい変化 |
|---|---|---|
| 叱る・強い口調で注意する | 内容は忘れても、怖い・悲しいという感情は残るため | 介護者への恐怖心、介護拒否、興奮 |
| 間違いをその場で正す(さっき食べたでしょ、など) | 本人にとっての現実を否定され、混乱と不安が強まるため | 言い争い、妄想や不穏の悪化 |
| 子ども扱いする(赤ちゃん言葉、本人の前で勝手に決める) | 自尊心が傷つき、意欲を失うため | 抑うつ、閉じこもり、活動量の低下 |
| 無視する・話をさえぎる | 孤独感が強まり、存在を認められていないと感じるため | 大声、落ち着きのなさ、同じ訴えの増加 |
| テストする・できないことを責める(今日は何日、私は誰、など) | 失敗体験が積み重なり、自信を失うため | 不安の増大、うつ状態、意欲の低下 |
反応には個人差があります。うまくいかない日があっても、ご家族の接し方だけが原因とは限りません。
接し方で症状は軽くなりますか?中核症状とBPSDの違い
結論もの忘れなどの中核症状を接し方で治すことはできませんが、妄想・興奮・介護拒否などのBPSD(行動・心理症状)は、周囲の対応や環境の工夫で軽くなることがあるといわれています。
認知症の症状は、大きく2種類に分けて考えると整理しやすくなります。脳の障害そのものから直接起こる中核症状と、そこに不安・体調・環境・人間関係などの要因が重なって現れるBPSD(行動・心理症状)です。
たとえば「財布を盗られた」という物盗られ妄想は、しまった場所を忘れる記憶障害(中核症状)を土台に、自信のなさや不安が重なって現れると考えられています。だからこそ、不安をやわらげる接し方がBPSDの軽減につながります。アルツハイマー型やレビー小体型など認知症の種類によって出やすい症状は異なりますが、接し方の基本原則は共通です。
| 区分 | 主な症状の例 | 接し方による変化 |
|---|---|---|
| 中核症状 | もの忘れ(記憶障害)、時間や場所がわからない(見当識障害)、段取りが立てられない(実行機能障害) | 接し方で治すことは難しい(できることを支え、進行にあわせて環境を整える) |
| BPSD(行動・心理症状) | 物盗られ妄想、帰宅願望、興奮・暴言、介護拒否、抑うつ、ひとり歩き(徘徊) | 対応や環境の工夫で軽くなることがある |
BPSDの背景に、痛み・便秘・脱水・薬の影響などが隠れていることもあります。急な変化はかかりつけ医への相談が安心です。
同じ話を何度も繰り返すときはどう対応する?
結論本人は初めて話しているつもりです。「さっきも聞いた」と指摘せず、初めて聞いたように相づちを打つのが基本の対応です。
記憶障害のため、話したことそのものを覚えていられません。指摘しても繰り返しは減らず、「恥をかかされた」という感情だけが残ってしまいます。同じ質問が続くのは、多くの場合不安をしずめるための確認行動でもあります。
離れて暮らしていて何度も同じ電話がかかってくる場合は、家族やきょうだいで受ける役割を分担するのもひとつの方法です。日めくりカレンダーや伝言メモなど、目で見てわかる工夫も本人の安心につながります。
- 初めて聞くつもりで「そうなんですね」と受け止める
- 日付や予定など同じ質問には、カレンダーやメモを一緒に見ながら答える形にする
- 話が長く続いてつらいときは、お茶を入れる・散歩に誘うなど、さりげなく場面を切り替える
- 不安が背景にあることが多いため、「心配いりませんよ」と安心できる一言を添える
物盗られ妄想・帰宅願望にはどう対応する?
結論「盗られていない」「ここが家です」と正面から否定しないことが基本です。まず気持ちを受け止め、一緒に探す・いったん付き合って気分を切り替えるなどの形で安心につなげます。
物盗られ妄想では、財布や通帳を盗られたと、いちばん身近で介護しているご家族が疑われることが少なくありません。これは頼っている相手だからこそ出やすい症状といわれており、嫌われているわけではありません。言い返さずに「それは困りましたね。一緒に探しましょう」と探し始め、本人が自分で見つけられるようにさりげなく誘導するのがコツです。介護者が先に見つけて手渡すと、「やっぱりあなたが隠していた」と疑いが強まってしまうことがあります。
帰宅願望は夕方に強まることが多く(夕暮れ症候群とも呼ばれます)、自宅にいても「家に帰ります」と訴えることがあります。「ここがあなたの家でしょう」と説得するより、「お茶を飲んでから帰りましょうか」といったん受け止め、一緒に歩きながら話を聞く、洗濯物たたみなど得意な作業をお願いするなど、気持ちが切り替わるきっかけをつくります。帰りたいという言葉は今いる場所に不安があるサインのことも多く、安心できる居場所や役割づくりが根本的な対応になります。
食事や入浴を拒否するときはどうすればいい?
結論無理強いは介護拒否をさらに強めるため逆効果です。体調や不安、羞恥心などの原因を探りながら、タイミングや誘い方を変えて、本人が受け入れやすい形を探すのが基本です。
食事や入浴の拒否には、本人なりの理由が隠れていることがほとんどです。言葉でうまく説明できないだけで、体調不良や義歯の不具合、裸になることへの不安、失敗への恐れなどが背景にあることが少なくありません。拒否はわがままではなく、不安や自尊心のサインと捉えるのが出発点です。
- 食事拒否: 義歯の不具合・口内炎・便秘・薬の影響をまず確認します。小分けの盛り付けにする、好物を一品添える、家族が一緒に食卓を囲むなどで食が進むことがあります
- 入浴拒否: 寒さや転倒への不安、裸を見られる恥ずかしさが背景にあることが多いため、脱衣所を暖める、同性が介助する、「温泉の気分でどうですか」と誘い方を変えるなどが有効です。デイサービス(通所介護)の入浴だけ利用する方法もあります
- 共通のコツ: 断られたら深追いせず、時間をおいて誘い直します。日をまたいでも構いません。入浴できない日は、温かいタオルで体を拭く清拭でも清潔を保てます
家族がつらくなったときはどうすればいい?
結論完璧な介護を目指さないことが何より大切です。ショートステイなどで介護者の休息を計画的に取り、家族会や認知症カフェなど、気持ちを話せる場につながることをおすすめします。
頭では「否定しない」とわかっていても、感情が追いつかずに強い言葉が出てしまうことは、どのご家族にもあります。完璧を目指さず、6〜7割できれば十分と考えることが、結果的に本人へのおだやかな対応につながります。
相談現場では、「怒ってしまった自分を責めてつらい」というご家族の声を本当によく伺います。イライラが続くのは、介護者の心身が限界に近づいているサインです。デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)を利用して介護から離れる時間を意識的につくっているご家庭ほど、在宅介護が無理なく続いている印象があります。
同じ立場の家族と話せる家族会(認知症の人と家族の会など)や、本人と家族がいっしょに立ち寄れる認知症カフェ(オレンジカフェ)は、多くの市区町村で開かれています。開催情報は、地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉窓口で教えてもらえます。
専門職の力を借りるにはどこへ相談する?
結論まずはかかりつけ医と地域包括支援センターが相談の入口です。専門的な診断や対応が必要な場合は、認知症疾患医療センターなどの専門機関につないでもらえます。
接し方の工夫だけで抱え込む必要はありません。痛みや便秘、薬の影響でBPSDが強まっていることもあるため、専門職への相談は早いほど選択肢が広がります。主な相談先を表にまとめました。
| 相談先 | 主な役割 | こんなときに |
|---|---|---|
| かかりつけ医 | 体調や薬の調整、専門医療機関への紹介 | 症状が急に変わったとき、まず身近に相談したいとき |
| 地域包括支援センター | 高齢者の総合相談窓口(無料)。介護保険の申請支援、家族会や認知症カフェの案内 | 介護全般の困りごと、使える制度を知りたいとき |
| 認知症疾患医療センター | 認知症の専門的な診断、BPSDへの対応、医療相談 | きちんと診断を受けたいとき、対応が難しい症状があるとき |
| ケアマネジャー(介護支援専門員) | ケアプランの作成、介護サービスの調整 | デイサービスやショートステイを使いたいとき |
窓口の名称や体制は市区町村によって異なります(2026年時点)。要介護認定がまだの場合は、申請の手順も地域包括支援センターで相談できます。
施設のプロに任せる選択肢|在宅で抱え込まないために
結論在宅介護が限界を迎える前に、認知症ケアに慣れた施設という選択肢も知っておくと安心です。入居は介護を投げ出すことではなく、本人と家族の両方を守る前向きな選択のひとつです。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)では、少人数の家庭的な環境で、認知症ケアの研修を受けた職員が生活を支えます。環境が合うことで、BPSDが落ち着く方もいます。グループホームは要支援2以上で認知症の診断があり、原則として施設と同一市区町村に住民票がある方が対象です。このほか、特別養護老人ホーム(特養)は原則要介護3以上(要介護1・2は特例入所のみ)が目安で、介護付き有料老人ホームにも認知症対応に力を入れる施設が増えています。
プロのケアに囲まれたことで症状が落ち着き、家族が「介護する人」から「会いに行く家族」に戻れたというお話も少なくありません。在宅で限界まで頑張りすぎる前に、見学だけでも早めに始めておくと、いざというときの選択肢が広がります。
どの施設が合うかは、症状や要介護度、ご予算によって変わります。介護の窓口では、関西4府県で認知症の受け入れ実績が豊富な施設を相談員が無料でお調べしています。「入居はまだ先」という段階の情報収集も歓迎ですので、お気軽にご相談ください。
よくある質問
認知症の人に言ってはいけない言葉はありますか?
「さっきも言ったでしょ」「何回言えばわかるの」のように、間違いを責める言葉は避けるのが基本です。内容は忘れても、責められた嫌な感情は残りやすく、不安や介護拒否につながることがあります。つい言ってしまったときは自分を責めすぎず、次の場面で言い方を変えれば大丈夫です。
同じ話を何度も繰り返すときは、指摘したほうがいいですか?
指摘しても繰り返しは減らず、恥をかかされたという感情だけが残りやすいため、初めて聞いたように受け止めるのが基本です。同じ質問は不安からの確認行動であることも多く、カレンダーやメモを一緒に見る、お茶や散歩でさりげなく場面を切り替えるといった方法が有効です。
財布を盗られたと家族が疑われます。どうすればいいですか?
物盗られ妄想は、いちばん頼りにしている身近な人ほど疑われやすいといわれる症状で、嫌われているわけではありません。否定や言い返しはせず、「一緒に探しましょう」と付き合い、本人が自分で見つけられるように誘導するのがコツです。症状が強く続く場合は、かかりつけ医や認知症疾患医療センターに相談しましょう。
夕方になると「家に帰る」と言い出します。どう対応すればいいですか?
帰宅願望は夕方に強まりやすく、今いる場所への不安のサインといわれています。説得するより「お茶を飲んでから帰りましょうか」といったん受け止め、散歩や得意な家事などで気持ちが切り替わるきっかけをつくるのが基本です。実際に外へ出てしまう場合に備えて、地域包括支援センターに見守りの仕組みを相談しておくと安心です。
お風呂を嫌がるときは、無理にでも入れたほうがいいですか?
無理強いは入浴拒否をさらに強めるため避けるのが基本です。寒さや転倒への不安、羞恥心などの原因を探り、脱衣所を暖める・誘い方を変える・デイサービスの入浴を利用するなどの工夫が有効です。入浴できない日があっても、温かいタオルで体を拭く清拭で清潔は保てます。
介護でイライラして優しくできません。私が悪いのでしょうか?
ご自身を責める必要はありません。イライラは介護者が限界に近づいているサインで、どのご家族にも起こります。ショートステイ(短期入所生活介護)などで休息を取り、家族会や認知症カフェ、地域包括支援センターで気持ちを話してみてください。在宅にこだわりすぎず、施設のプロに任せることも前向きな選択肢のひとつです。
参考(一次情報)
- 政府広報オンライン「知っておきたい認知症のキホン」
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」
- 認知症介護研究・研修センター「認知症介護情報ネットワーク(DCnet)」
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会
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