最終更新: 2026-07-06
在宅酸素療法(HOT)とは
在宅酸素療法(HOT)とは、慢性呼吸不全などで体に酸素を取り込みにくくなった方が、自宅や施設で酸素吸入を続ける治療です。対象となる状態、機器のしくみ、医療保険での費用目安、火気厳禁などの注意点、老人ホームの受け入れ傾向までやさしく解説します。
この記事の要点
- 在宅酸素療法(HOT)とは、慢性呼吸不全などの方が医師の処方に基づいて自宅や施設で酸素吸入を続ける治療です
- 機器は酸素濃縮装置と携帯用酸素ボンベのレンタルが基本で、費用には医療保険が適用されます
- 自己負担は1割でおよそ月7,300〜7,700円、3割でおよそ月22,000〜23,000円が目安です(電気代は別)
- 酸素は火を燃え広がらせる性質があるため火気厳禁が最重要で、機器の周囲2m以内にたばこなどを近づけないことが求められます
- 在宅酸素の方を受け入れる老人ホームは比較的多い傾向ですが、機器管理と夜間・停電時の対応体制の確認が欠かせません
在宅酸素療法(HOT)とは?自宅や施設で酸素を吸入する治療
結論在宅酸素療法(HOT)とは、慢性呼吸不全などで血液中の酸素が不足しがちな方が、医師の処方に基づいて自宅や施設で酸素吸入を続ける治療です。英語の頭文字からホット(HOT)とも呼ばれます。
在宅酸素療法とは、病気によって肺から体へ酸素を十分に取り込めなくなった方が、専用の機器を使い、病院の外で酸素を吸いながら生活を続ける治療です。英語のHome Oxygen Therapyの頭文字からHOT(ホット)と呼ばれ、医療保険の対象となってから広く普及した、在宅医療の代表的な治療のひとつとされています。
不足している酸素を補うことで息切れをやわらげ、外出や入浴といった日常の活動を続けやすくすることが目的とされています。入院ではなく住み慣れた場所で療養を続けられる点が特徴で、自宅だけでなく、老人ホームなどの施設に入居しながら続けることもできます。
実際の吸入は、鼻に細いチューブ(鼻カニューラ)を当てて行うのが一般的です。吸入する酸素の量(流量)や1日に使う時間は医師が処方として決めるもので、自己判断で流量を変えたり中断したりしないことが大原則とされています。
なお、この記事の医療に関する説明は一般的な情報です。在宅酸素療法が必要かどうか、流量や機器をどうするかなど、実際の判断は主治医・かかりつけ医にご相談ください。
どんな状態の方が対象?|COPDなどの慢性呼吸不全
結論COPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめとする高度慢性呼吸不全のほか、重い慢性心不全や肺高血圧症などの方が対象とされています。血液中の酸素の値など、医療保険の適用基準が定められています。
在宅酸素療法の対象としてもっとも多いのはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)とされています。長年の喫煙などにより肺の機能が低下し、体を動かしたときに強い息切れが出る病気です。そのほか、間質性肺炎・肺線維症、肺結核後遺症、重い慢性心不全、肺高血圧症などでも用いられるとされています。
医療保険で在宅酸素療法を行うには、動脈血の酸素の値が一定の基準を下回る高度慢性呼吸不全であることなど、国の定める基準を満たす必要があるとされています。検査や判定は医療機関で行われ、基準に該当すると医師から在宅酸素療法が処方されます。
高齢の方では、肺炎や心不全での入院をきっかけに、退院にあわせて在宅酸素療法が始まるケースも少なくありません。退院後の住まい探しと機器・生活の準備を同時に進めることになるご家族も多く、早めに情報を整理しておくと安心です。対象となる主な状態は次のとおりです。
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 間質性肺炎・肺線維症などの高度慢性呼吸不全
- 肺結核後遺症
- 重症の慢性心不全
- 肺高血圧症
- チアノーゼ型先天性心疾患 など(いずれも医師の判断によります)
機器のしくみ|酸素濃縮装置と携帯用酸素ボンベをレンタル
結論自宅や居室に据え置く酸素濃縮装置と、外出用の携帯用酸素ボンベを組み合わせて使うのが標準的です。機器は購入ではなく、医療機関を通じたレンタルで利用するのが基本です。
酸素濃縮装置は、室内の空気から窒素を取り除いて濃度の高い酸素を作る機器で、電源につないで連続して使えます。現在の在宅酸素療法はこの方式が主流とされています。外出時には小型の携帯用酸素ボンベをカートなどで持ち運び、呼吸に合わせて酸素を送る呼吸同調器を付けてボンベの使用時間を延ばすのが一般的です。
機器は購入するのではなく、医療機関を通じて専門業者からレンタルするのが基本です。レンタル料や保守点検の費用は診療報酬(医療保険)に含まれており、業者が定期的に点検や消耗品交換に訪れます。フィルター掃除などの日常の手入れは、ご本人やご家族、施設の職員が行います。
このほか、電気を使わない液化酸素装置という方式もあります。停電の影響を受けにくい一方で、取り扱う業者や設置条件が限られるため、どの機器になるかは主治医と業者との相談で決まるのが一般的です。主な機器を表にまとめました。
| 機器 | しくみ・使い方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 酸素濃縮装置 | 空気中の窒素を取り除き高濃度の酸素を作る。電源が必要で室内に据え置く | 主流の方式で手入れが簡単。停電時は止まるため備えが必要 |
| 携帯用酸素ボンベ | 圧縮した酸素を詰めたボンベ。外出時にカートやバッグで携行する | 電気不要。残量に限りがあり、呼吸同調器の併用で使用時間を延ばせる |
| 液化酸素装置 | 液体酸素を親容器にためて気化させ吸入。子容器に移して外出にも使える | 電気不要で停電に強い。取扱業者や設置条件が限られる |
機器の組み合わせは処方内容や地域の業者によって異なります。2026年時点の一般的な構成です。
費用はいくら?|医療保険が適用される
結論在宅酸素療法には医療保険が適用され、機器レンタル代を含む自己負担は1割負担でおよそ月7,300〜7,700円、3割負担でおよそ月22,000〜23,000円が目安です。別途、酸素濃縮装置の電気代がかかります。
在宅酸素療法の費用は、在宅酸素療法指導管理料という診療報酬にまとめられています。毎月の受診の際に、指導管理料と酸素濃縮装置・携帯用酸素ボンベなどの加算をあわせて算定するしくみで、機器のレンタル代や保守費用もこの中に含まれるため、機器代を別に支払う必要は原則ありません。
このほかに、酸素濃縮装置の電気代(機種や使用時間により月1,000〜3,000円程度が目安とされています)は自己負担です。医療費が高額になった月は高額療養費制度の対象になるほか、呼吸機能障害で身体障害者手帳の対象となった場合は、自治体の医療費助成や電気代助成を利用できることがあります。老人ホームに入居しても、医療保険で続ける基本のしくみは変わりません(施設種別による例外は後述します)。
標準的な構成では医療費の総額が月におよそ73,000〜77,000円となり、自己負担はその1〜3割です。負担割合ごとの目安を表にまとめました。
| 負担割合 | 自己負担の目安(月額) | 主な対象 |
|---|---|---|
| 1割負担 | 約7,300〜7,700円 | 75歳以上(一般所得)の方など |
| 2割負担 | 約14,600〜15,400円 | 75歳以上で一定以上の所得がある方など |
| 3割負担 | 約22,000〜23,000円 | 現役世代、現役並み所得の方 |
診療報酬点数(在宅酸素療法指導管理料2,400点+酸素濃縮装置加算4,000点+携帯用酸素ボンベ加算880点など、1点=10円)をもとにした2026年時点の概算です。呼吸同調器の加算や診察料・薬代などにより前後します。
生活上の注意点|火気厳禁がもっとも重要
結論もっとも重要な注意点は火気厳禁です。酸素には火を激しく燃え広がらせる性質があるため、吸入中は機器やチューブの周囲2m以内にたばこ・コンロなどの火気を近づけないことが求められます。
酸素そのものが爆発するわけではありませんが、火を強く燃え広がらせる性質(支燃性)があります。酸素吸入中にたばこを吸うなどして鼻カニューラや衣類に引火する火災事故が実際に起きており、厚生労働省が繰り返し注意喚起を行っています。ご本人はもちろん、ご家族や訪問者を含めて、酸素を使う空間では火気を扱わないことが大切です。
施設に入居する場面では、この火気厳禁のルールが施設全体で守られるかどうかも大切な確認ポイントになります。館内の禁煙ルールや、居室でのろうそく・線香の扱いなどを、見学の際に聞いておくと安心です。
火気のほかにも、チューブにつまずく転倒や機器の吸気口をふさぐことによる不具合など、暮らしの中で気をつけたい点があります。主なものを表にまとめました。
| 場面 | 注意すること | ポイント |
|---|---|---|
| 火気 | 機器・チューブの周囲2m以内にたばこ・ライター・ガスコンロ・ろうそく・線香などを近づけない | 吸入しながらの喫煙は特に危険。調理はIH調理器に替えると安心 |
| 機器の設置 | 吸気口を壁や布でふさがず、直射日光や暖房器具のそばを避ける | 壁から離して置く(15cm以上など機種ごとの目安あり) |
| 室内の移動 | 延長チューブは床にはわせ、たるみを整理してつまずきを防ぐ | 高齢の方は転倒・骨折につながるため動線の整理が大切 |
| 外出 | ボンベの残量と使用可能時間を出発前に確認し、余裕を持って携行する | 呼吸同調器の電池残量もあわせて確認 |
| 流量の変更 | 息苦しくても自己判断で流量を上げず、まず医師や訪問看護に連絡する | 病気によっては流量の上げすぎが危険な場合があるとされています |
厚生労働省の注意喚起(在宅酸素療法における火気の取扱いについて)などをもとにした一般的な注意点です(2026年時点)。機器の取扱説明書と医師・業者の指導に従ってください。
在宅酸素でも入れる老人ホームはある?|受け入れの傾向
結論在宅酸素療法の方を受け入れる施設は比較的多く、在宅酸素だけを理由に断られるケースは少ない傾向です。ただし施設種別と施設ごとの管理体制によって条件が異なるため、個別の確認が必要です。
在宅酸素療法は、たん吸引やインスリン注射のように職員が日々医療行為を行うケアとは異なり、機器の管理と見守りが中心です。状態が安定していて流量の変更などがなければ、看護師が日中のみの施設や、訪問看護を組み合わせた住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)でも受け入れられることが多い傾向です。
一方で、ボンベ交換や機器の操作をご自身でできない場合や、夜間に状態が変わりやすい場合は、看護体制の手厚い施設のほうが安心です。種別ごとのおおまかな傾向を表にまとめました。
| 施設種別 | 受け入れの傾向 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 介護付有料老人ホーム | 受け入れ実績が多い。24時間看護体制の施設なら夜間も安心しやすい | 夜間の看護体制、酸素業者の出入り可否 |
| 住宅型有料老人ホーム・サ高住 | 自己管理できる方や訪問看護の併用で受け入れ可となる例が多い | 緊急時の駆けつけ体制、訪問診療・訪問看護の連携先 |
| グループホーム(認知症対応型) | 要支援2以上+認知症の診断が要件(原則同一市区町村)。機器をさわってしまう場合は個別判断 | チューブや機器の見守り方法 |
| 特別養護老人ホーム(特養) | 原則要介護3以上。看護職員の配置があり受け入れ例は比較的多い | 夜間はオンコール対応が一般的のため、急変時の流れ |
| 介護老人保健施設(老健) | 在宅復帰を目指す施設。医療費の扱いが在宅と異なり、受け入れ判断が分かれやすい | 入所中の酸素の費用負担と受け入れ方針 |
| 介護医療院 | 医療体制が手厚く、医療依存度の高い方に対応しやすい | 入所要件と空き状況 |
2026年時点の一般的な傾向です。同じ種別でも施設ごとに体制は異なり、酸素の流量やご本人の状態によっても判断が変わります。老健や介護医療院など医療の提供を前提とする施設では、在宅酸素療法の費用の扱いが自宅や有料老人ホームと異なる場合があるため、費用面も含めて個別にご確認ください。
施設選びの確認ポイント|管理体制と緊急時対応
結論確認の中心は、日々の機器管理を誰が行うかと、夜間や急変時にどう対応するかの2点です。酸素業者の対応エリアや施設内の火気管理もあわせて確認します。
在宅酸素の方の施設選びでは、受け入れ可能という返事だけで決めず、具体的な体制を確認することが大切です。
相談現場では、在宅酸素というだけで断られることは少ない一方、「酸素業者の対応エリア外だった」「喫煙スペースの管理に不安があり見送った」「夜間の急変対応を確認したら想定と違った」など、細かい条件の確認で候補が変わるケースがよくあります。逆に、パンフレットに記載がなくても、訪問看護との組み合わせで受け入れられた例もあり、個別の確認がなにより大切です。
介護の窓口では、在宅酸素療法の方の受け入れ実績がある施設を、酸素業者の対応や夜間体制の確認まで含めて相談員が無料でお調べします。お気軽にご相談ください。見学や入居相談では、次の点を聞いてみてください。
- ボンベ交換や機器のチェックを誰が行うか(ご本人・介護職員・看護師)
- 夜間や急変時(息苦しさが強くなったときなど)の連絡・対応の流れ
- 訪問診療・訪問看護や協力医療機関との連携内容
- 酸素業者の対応エリアか、施設への定期訪問・緊急対応が可能か
- 館内の禁煙ルールと、居室での火気(ろうそく・ライターなど)の管理
- 停電・災害時の対応手順(非常用電源、ボンベの備えなど)
- 呼吸器内科などへの通院の付き添いや送迎の可否
災害・停電時の備え|ボンベへの切り替えと連絡先の整理
結論酸素濃縮装置は停電すると止まるため、停電時は慌てずに携帯用酸素ボンベへ切り替えるのが基本とされています。ボンベの残量確認と、業者・医療機関の緊急連絡先の整理を日ごろから行っておきましょう。
台風や地震による停電は、酸素濃縮装置を使う方にとって大きなリスクです。停電したら、処方された流量のまま携帯用酸素ボンベに切り替え、酸素業者に連絡してボンベの追加を依頼するのが基本の流れとされています。不安からつい流量を上げたくなりますが、自己判断で変えないことが原則です。息苦しさが強いときは、医療機関や救急に相談してください。
施設に入居している場合は、停電や災害への対応を施設が組織として行うことになります。非常用電源の有無、ボンベの備え、業者との連絡体制など、災害時に酸素をどう確保するかは施設見学の際にぜひ確認したいポイントです。災害時対応を含めた施設への確認は、相談員がお手伝いできますのでご相談ください。
ご自宅で療養を続ける場合の日ごろの備えとしては、次のような準備が勧められています。
- 携帯用酸素ボンベの残量を定期的に確認し、予備を決められた本数で保管する
- 酸素業者・医療機関・訪問看護の緊急連絡先を機器のそばに掲示しておく
- ボンベへの切り替え手順を、ご本人だけでなく家族や施設職員も練習しておく
- 災害時の安否確認や優先配送など、業者のサポート体制を確認しておく
- 避難する場合はボンベと呼吸同調器、お薬手帳を持って移動する
よくある質問
在宅酸素療法をしていると老人ホームに入れませんか?
入れないわけではありません。在宅酸素は機器の管理が中心のため、受け入れている施設は比較的多い傾向です。ただし、ボンベ交換を誰が行うか、夜間の急変時にどう対応するかは施設ごとに異なるため、個別の確認が欠かせません。
老人ホームに入っても在宅酸素の費用は医療保険のままですか?
有料老人ホームやサ高住などでは、自宅と同じように医療保険(在宅酸素療法指導管理料)で続けるのが一般的です。一方、介護老人保健施設(老健)などでは医療費の扱いが異なる場合があるため、入所前に施設と主治医に確認しておくと安心です。
酸素を吸いながらお風呂に入れますか?
医師の指示のもとで、酸素を吸入しながら入浴すること自体は広く行われているとされています。入浴は体力を使うため、湯温や時間、吸入の流量について主治医の指示を確認してください。施設では入浴時の見守りや介助の体制も確認しておくと安心です。
在宅酸素中にたばこを吸うとどうなりますか?
酸素には火を強く燃え広がらせる性質があり、吸入中の喫煙で鼻カニューラや衣類に引火した火災事故が報告されています。厚生労働省も火気厳禁の注意喚起を行っており、ご本人も周囲の方も、機器の周囲2m以内では絶対に火気を扱わないでください。
停電になったら酸素はどうすればよいですか?
酸素濃縮装置は電気で動くため、停電時は処方された流量のまま携帯用酸素ボンベに切り替え、酸素業者へ連絡するのが基本とされています。日ごろからボンベの残量と切り替え手順を確認しておくことが大切です。息苦しさが強いときは医療機関や救急に相談してください。
在宅酸素とたん吸引の両方が必要な場合はどうなりますか?
たん吸引は職員が行う医療的ケアのため、在宅酸素のみの場合より受け入れ先は絞られる傾向です。看護師の配置時間や、研修を修了した介護職員の有無など、たん吸引側の体制確認が中心になります。必要なケアをあわせて整理し、施設に伝えることが大切です。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「在宅酸素療法における火気の取扱いについて」
- 厚生労働省「診療報酬点数表(在宅酸素療法指導管理料)」
- 独立行政法人環境再生保全機構「大気環境・ぜん息などの情報館」
- 一般社団法人日本呼吸器学会「呼吸器の病気」
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